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手作り食を与えたときに起こる変化

当院では、食事療法の一環としてよく手作り食をお勧めしています。

その最大の目的は、多くのドッグフードに含まれている過酸化脂質の排除であり、良質で酸化を受けていない新鮮な必須脂肪酸の供給を確保することです。

そのことで、治療の目的は達成するのですが、手作り食でおこる体の変化は、しばしば飼い主様の想像を超えることがあります。

その変化の大きさに、中には不安を感じられたりする方もおられるようです。 今の若い獣医さんたちは、人々がペットに手作り食を与えるのが普通だった時代のことを知る方はほとんどおられませんので、その変化のことを誤解されていることが多いようです。

ここで、手作り食を与えたときに起こる変化について、まとめてみたいと思います。

一般的に、ドッグフードから手作り食に変更した際には以下のような変化が見られます。

 

便の量が激減する

体臭が無くなる

毛艶が良くなる

毛量が増える

涙やけが無くなる

マラセチア性外耳炎が無くなる

膿皮症になりにくい

白内障になりにくい

筋肉量が増えて体重が増える

では、順番に解説していきましょう。

 

 

便の量が激減する

便の量が激減するということですが、ドッグフードはその重量のうち大半がパルプ質でできています。つまり紙粘土の材料のような不消化繊維が、素材のほとんどを占めています。

対して、手作り食は、その重量のうちの、80%は水分です。ですから手作り食は消化されると、その80%の水分が吸収されてしまい、さらに残りの栄養素が消化吸収されると、食べた量の10%ほどしか残りません。そのため、残った残渣だけで便を形成しようとすると、便の量は、最初の食事量の10%ほどの量しか作る事ができません。

一方、ドッグフードは、大半が不消化繊維のパルプ質なので、腸の中を素通りしてきた不消化繊維がそのまま便を形成し、少なくとも食事量の50%にあたる量の便が作られます。

よく、手作り食で便秘になると言われたりするのですが、便秘なのではなく、便の量がフードを食べていた時の5分の1近くまで減ってしまう現象が起こっているのです。

もともと、狼たちは手作り食のような食事をしていたわけですから、そのような少ない便の方が正常で、本当はフードを食べて出てくる大量の便の方が異常なのですが、フードを食べるのが当たり前のようになっている現在では、その大量の便が出てくることが常識と思われることが多くなっています。

繰り返しますが、手作り食を与えて出てくる便の量が、犬の本来の便の量であり、フードを食べた時に出てくる便の量が異常なので、手作り食を与えて便が5分の1ぐらいに少なくなっても何も心配する必要はありません。

 

 

体臭が無くなる

毛艶が良くなる

手作り食を与え始めて1~2か月ほど経つと、飼い主様からよく言われるのが、ペットの体臭が無くなった、あるいは毛艶が良くなったという話です。

手作り食をご指導させていただくときに、必ず新鮮な必須脂肪酸を加えていただくようにお話しさせていただくのですが、この新鮮な必須脂肪酸は、皮膚の最外層に存在する、皮脂膜の形成に関与しています。

この皮脂膜は、本来抗菌的な働き(抗菌バリアー)があり、皮膚の上での菌の活動を制限する効果を持っています。新鮮な必須脂肪酸が供給されていると、細菌やマラセチアは繁殖しませんが、必須脂肪酸の供給不足が起こったり、過酸化脂質や代替の脂肪酸によって置き換えられると、細菌やマラセチアの繁殖が見られ、これが不快な腐敗臭に近い体臭を発する原因になってしまいます。

この不快な体臭の対策として、この話の内容から、フードを与えながら、脂肪酸を加えるという方法を、思いつく人がいるかもしれませんが、フードには、過酸化脂質という酸化した脂肪酸が含まれています。これは保存食の宿命で避けられないことなのですが、この過酸化脂質は、新鮮な必須脂肪酸に触れると、その大切な必須脂肪酸を酸化させてしまう、連鎖的脂質過酸化反応という現象を起こしてしまうことが知られています。

ですから、過酸化脂質が体内に残っていると、いくら新鮮な必須脂肪酸を取り込んでも、すべて酸化されてしまって効果を発揮できません。

そこで、フードから手作り食に切り替えるときには、体内に取り込んでしまった過酸化脂質を排除する作業を行う必要があります。その方法として、抗酸化サプリを使った抗酸化栄養療法を行うことが勧められます。

こうして、抗酸化療法を行ったうえで手作り食として必須脂肪酸を加えると抗菌バリアーが体を守ってくれるため、体表での細菌やマラセチアの繁殖が見られなくなり、本来の犬の匂い以外の油の酸敗臭が消えて、飼い主様は、臭いが無くなったと感じられます。

また、抗菌バリアーを形成している脂肪酸は、乾性脂質と呼ばれる性質を持つため、手触りもサラサラとした、気持ちの良い手触りになります。一方で不良な脂肪酸で形成された皮脂は、湿性脂質であるため、被毛は不快なべとついた手触りになります。

 

 

毛量が増える

私は手作り食をお勧めするときには、高タンパク食の食事をお勧めしています。タンパクの不足が原因で病気になっているケースが多いためなのですが、その加減で、被毛を作る材料が豊富に供給されるせいで、毛量が多くなるケースが多いです。これが換毛期の前後に当たると、飼い主様から脱毛量が非常に多くなると言われます。だからといって、薄毛になることもないので心配はありません。

Before

After

 

 

 

 

⑤ 涙やけが無くなる

涙やけには、いろいろ苦労されている方も多いようですが、よく言われているのが、涙管が詰まっているとか、アレルギーだ、などという話です。しかし、私の経験では、涙管の洗浄などで改善することはほとんどありません。また、アレルギーで出る眼周の症状は、まったくの別症状です。それらの話で涙やけが解決したという話は、残念ながら聞いたことがありません。

涙やけに大きく関わっているのは、涙の分泌量の増加です。根本的に涙の量が増えることで、涙管からの排出量を超えてしまい、流涙として、内眼角から涙がこぼれ落ちています。流涙のメカニズムには脂肪酸が大きくかかわっているので、フードから手作り食に変えて、良質の脂肪酸を与えるようになると、涙の量は適正な量に修正され、流涙が止まります。そして涙やけで変色した毛が生え変わるとともに、やがて涙やけは消えていきます。

 

Noticeable tear stains

After

 

 

 

 ⑥ マラセチア性外耳炎が無くなる

アレルギーなどが背景にある場合を除いて、マラセチア性外耳炎の原因には、過酸化脂質が大きく関わっています。先ほども書きましたように、過酸化脂質の除去と良質の必須脂肪酸を供給すると、マラセチアは耳道で生息できなくなり、自然とマラセチア性外耳炎は治ってしまいます。

 

 

膿皮症になりにくい

梅雨の時期になると、よく「膿皮症の季節が来た」などという話がありますが、その理由は、被毛の間の湿気が菌の繁殖を促すせいだと言われています。菌が繁殖して、痒みを発生させて、掻いた傷から菌が皮内へ侵入し膿皮症を悪化させると言われています。

しかし、脂肪酸の摂取を強化した手作り食を与えられている動物たちではこのような現象はほぼ見られません。先にも書きましたが、良質な脂肪酸が強固な皮脂バリアーを形成するため、菌が繁殖しないのです。

また、膿皮症の治療において、抗菌シャンプーで頻繁に洗う事がよく推奨されています。しかし、頻繁にシャンプーを行うと、その行為自体が皮脂バリアーを壊してしまうので、この治療法に反対する研究者もいます。

しかし、頻繁にシャンプーをする、ということについても、脂肪酸の強化された手作り食を食べている動物たちには、あまり影響がありません。それは、皮脂膜の再生に時間がかからないからです。

通常、十分な量の良質な脂肪酸を取っている動物たちはシャンプー後、約7時間程度で皮脂膜(皮脂バリアー)を再構成します。しかし、フードを食べている動物たちでは、良質な脂肪酸が足りなくなり、皮脂膜の再構成に時間がかかってしまいます。さらに、シャンプーを頻繁に繰り返した場合、皮脂膜の主成分の必須脂肪酸が繰り返し洗い流されてしまい、だんだんと脂肪酸が足りなくなってしまいます。こうなると自力で皮膚を守ることは難しくなります。

一方、十分な量の脂肪酸を供給されている手作り食を食べている動物たちは、何度シャンプーを繰り返しても、必須脂肪酸が足りなくなることはありません。というか、はなから何度も抗菌シャンプーを繰り返さなければならないようなことにはならないので、そのような場面に出会う事もないのですが・・・。

 

 

白内障になりにくい

多くの飼い主様は、10歳超えると、ワンちゃんは誰でも白内障になるものだと思われているようですが、手作り食中心の食事を与える方々からすると、白内障はそれほど馴染みのある病気ではありません。

筋金入りの手作り食一本で育てられたワンちゃんたちは、15歳を超えても、白内障の傾向が全く見られないワンちゃんが大勢います。

じつは白内障の原因には酸化ストレスが、大きく関わっていることが知られています。先ほどからたびたび出ている過酸化脂質は酸化ストレスによる産物ですが、連鎖的脂質過酸化反応という作用を持つことから酸化ストレスと同じような働きがあると考えられています。したがって、過酸化脂質からワンちゃんを遠ざけると、ワンちゃんは白内障になりにくくなるのです。

 

 

筋肉量が増えて体重が増える

ドッグフードを中心とした食事を与えられているワンちゃんは、日ごろから20%前後のタンパク量で生活をしています。

一方、手作り食を中心にしているワンちゃんでは、40%以上のタンパク量で食事をしているワンちゃんがたくさんいます。

そのような高タンパク質の食事を日ごろからとっているワンちゃんたちは、自然と筋肉がつくことになります。それまで食べていた、炭水化物60%のフードでは、プヨプヨと体脂肪がついていたのですが、高タンパク食では体脂肪より重い、筋肉がついてくるので、体重は数字的には増えてしまいます。

触診では、かなり頑丈な体つきに変化するので、とても安心です。小型犬では、後肢の関節に負担がかかるのではないかと心配されることもあるのですが、筋力で骨格の不具合をカバーすることが出来るので、そちらも心配はありません。さらに、関節ケアの栄養療法を加えることで、さらに足腰を強化することが出来ます。

また、骨の強度にもかなり影響を与えます。

世間では、骨を強くするために、カルシウムを与えましょうと言われますが、骨の基本構造は、コラーゲンマトリクスからできており、その基本構造にカルシウムが沈着しているという造りです。ですから、骨本体を形成しているコラーゲンが供給されていなければ、いくらカルシウムをとっても、骨は強化されません。

逆に、高タンパク食でコラーゲンの生成を強化した動物たちの骨は、自然と強化されていき、さらにカルシウムを別段加えなくても、カルシウムはどんどんと骨に沈着していき強固な骨を作ります。すこし、縁起でもない話をしますが、高タンパクの手作り食を与えられていたワンちゃんたちが17歳~20歳で最期を迎えて、荼毘に臥されたときに、霊園の係の方たちに驚かれたという話をよくお聞きします。というのも、全身の遺骨があまりにもしっかり残っており、普通なら残らないような指の先の骨までもしっかりと残っているというのです。それこそが多くのミネラル分を取り込んだ強固な骨だったという証ではないかと思います。

逆に、手作り食でも、フードに倣って低タンパク食レシピを勧められている方々もおられるのですが、私はそういう理由から、せっかくの手作り食の効果は薄れてしまうのではないかと考えています。

以上

 

 

長々と書いてしまいましたが、手作り食で起こる変化、得られるメリットは、個々のワンちゃん、猫ちゃんでそれぞれです。

手作り食のほうが、長生きできることは論文でも報告されています。手作り食を試したことのない人たちが、不安を煽るようなこともあるようですが、動物たちとともに、美味しく、楽しく、食べたいものを食べて幸せを満喫して長く健康でいてほしいというのが、私たちの願いです。